タクシー運転手の仕事は休日や残業の給与もしっかり保障されている上、年収300万円以上を稼げる仕事です。ただ、そうした実態とは裏腹に「タクシー運転手は労働時間が長く、低収入であまり休めない、過酷な仕事だい!」という正確ではない情報がさも真実のように広まっています。
簡単に言うと、イメージがよろしくありません。
これはひとえに、多くの国民がタクシー運転手という仕事の実際を知らないからです。タクシーの仕事は公共性が高く、社会的に必要不可欠です。そのため、本来は他人から「底辺」などと後ろ指をさされる理由は全くないのですが、世の中には何の根拠もなく人をおとしめたがる輩がいて、さらにそういう輩の言うことをそのままうのみにしてしまう輩もいます。
実際にタクシーを利用する以上に、多くの国民が映画やドラマに登場するタクシー運転手を見ています。そこから受ける印象がタクシー運転手に対するイメージを左右しているかもしれません。
今回は特に、タクシー運転手が主人公である映画、ドラマを紹介します。それらの作品から「タクシー運転手のイメージがよろしくない」問題を考えてみましょう。
ちなみにトラック運転手を主人公にした作品より、タクシー運転手を主人公にした作品って少ないみたいです。
ちなみに映画「インデペンデンス・デイ」やドラマ「NUMBERS 天才数学者の事件ファイル」などに出演している俳優ジャド・ハーシュは若いころ、「Taxi」ってテレビシリーズで主人公のタクシー運転手を演じていましたが、残念ながら日本では放送されませんでした。
タクシードライバー
1976年のアメリカ映画。監督はマーティン・スコセッシ、主演はロバート・デ・ニーロで、2人の人気を決定づけた作品です。
ベトナム戦争帰りの孤独な男が「夜、眠れないから」と言って深夜勤務のタクシー運転手となる物語。主人公はだんだん狂気にかられ、映画は暴力で彩らていきますが、それは映画の後半。前半は、深夜勤務の中でいろいろな乗客を乗せていく様子が、生々しく描かれます。
ベトナム戦争、銃社会と、日本とはまるで違うお国の話ですが、当時はこれを見てタクシー運転手に憧れた日本人もいたかもしれません。狂気にかられていくデ・ニーロはカッコ良かったですから。
イコライザー2
2018年のアメリカ映画。監督はアントワーン・フークア、主演はデンゼル・ワシントンです。
元CIAエージェントの主人公が“困っている人”を助けて悪人退治していく「イコライザー」の続編です。前作ではホームセンターの従業員だった主人公が、この続編ではタクシー運転手となっています。
ただ、映画の内容は世直し処刑人ボランティア活動に専念する元CIAエージェントが悪党をせん滅することに主眼が置かれていて、タクシー運転手の日常を描くようにはなっていません。たとえタクシー運転手でなくても、この主人公ほどのスキルがあれば、なんでもできるような気がします。
Taxi
1998年に始まったフランス製の映画シリーズ。2007年まで4本が作られ、2018年に5作目となる新作が作られました。その「TAXiダイヤモンド・ミッション」は2019年1月18日に日本で公開されました。
さて、本シリーズは警官とタクシー運転手がコンビを組んで犯罪者を追うというアクションコメディです。人生の深みを味わったり、社会問題を考察するのではなく、痛快なアクションを笑って楽しむべき作品です。
主人公は自分のタクシーをレースカーのように改造していて、乗客の「急いでくれ」という要望や、犯罪者を追う必要性があると、制限速度を無視してかっ飛ばします。コメディですし、公道をあんなスピードで走れば免許取り消しなので、実生活の参考には1ミリもなりません。そりゃ、あんな猛スピードで街を飛ばすことができれば気持ちいいでしょうが、現実では無理でしょう。
ちなみにハリウッドで2004年に「TAXI NY]としてリメイクされ、2014年にフランスとアメリカの共同制作で「TAXIブルックリン」としてテレビドラマ化されました。
月はどっちに出ている
1993年のテレビドラマ、および日本映画。監督は崔洋一で、主演はドラマが石橋凌、映画が岸谷五朗。
在日コリアンの主人公が、フィリピン女性と出会い恋に落ちます。2人の恋の行方を追いながら、日本で暮らすさまざまな人々の姿を描いています。
主人公の勤めるタクシー会社は、はっきり言ってかなり“問題アリ”ですが、いささかカリカチュアライズしつつ、そこにリアリティもあり、そのへんが評価もされています。
ここで何を感じるかは見る人にゆだねられますが「こんな人生もあるかも」と思っても間違いではないでしょう。
タクシー運転手 約束は海を越えて
2017年の韓国映画。監督はチャン・フンで、主演はソン・ガンホ。
舞台は1980年で、しかも光州事件という実際の出来事を背景にしていて、全く日本のタクシー運転手の生活をイメージする役には立ちませんが、市井のタクシー運転手が振り絞る勇気に、観客は心ふるえることでしょう。
他人の仕事を横取りしてしまう、主人公のバイタリティは真似しちゃいけませんが見習いたいところもあります。
ねこタクシー
2010年のテレビドラマ、および日本映画。ともに監督は亀井亨で、主演はカンニング竹山。
元中学教師の主人公がタクシー運転手となりますが、仕事に対して無気力で、低収入という状況になります。たまたま見つけた猫をタクシーに同乗させ、それが話題になって乗客が増えるという話なので、これも実生活の参考にはなりません。
ただ、主人公のように「やる気がない」タクシー運転手は、あまり稼げないということは伝わります。それに、かわいい猫を見ているだけで癒されます。
人生タクシー
2015年のイラン映画。
映画監督ジャファル・パナヒがタクシーのダッシュボードにカメラを取り付け、タクシー運転手としてタクシーを走らせ、さまざまな乗客を乗せて行きます。
老若男女、それぞれの乗客たちの言動から、それぞれの人生模様やイランという社会の姿が見えてきます。タクシーというフィルターを通した人生ドラマです。
お国柄も違うイランですが、タクシーってのはこれほど「いろいろな乗客の乗せる」ってことは分かるかもしれません。
KAMIKAZE TAXI
1995年のオリジナルビデオ作品であり、その後劇場公開されました。監督は原田正人で、主演は役所広司。
役所広司が演じているのは日系ペルー人で、それだけ聞くと笑えてきますが、内容はハードでシリアスです。ま、ユーモアもありますけど。
組から追われるチンピラが、偶然乗ったタクシーの運転手と逃亡しながらも交流するというロードムービーです。犯罪と暴力がらみの映画でもあります。
フィフス・エレメント
1997年のフランス製SF映画。監督はリュック・ベッソンで、主演はブルース・ウィリス。
2214年の未来を舞台にしていますが、主人公はタクシー運転手です。ただ、このころにはタクシーだけじゃなくてあらゆるクルマが空を飛んでいます。
また、主人公はタクシー運転手ですが、あらゆる武器に精通した元特殊部隊員で、物語の中でももっぱらそっちの技能で活躍します。
タクシードライバーの推理日誌
1992年から2016年まで39本制作された2時間サスペンスのテレビドラマシリーズ。主演は故・渡瀬恒彦。
元警視庁敏腕刑事の主人公が、タクシー運転手の視点を通して、乗客が関わった事件を解決します。また、この主人公は日ごろの売り上げの低下を長距離客で取り返す有能なタクシー運転手で、会社内外で半ば“伝説のドライバー”となっています。
事件捜査をしながらタクシーの運転手もしているので「タクシー運転手は副業にも最適」を実践しているとも言えます。事件捜査はボランティアなので、それによる収入はありませんが。
似た趣向の2時間ドラマに余貴美子主演の「女タクシードライバーの事件日誌」があります。
このほか、タクシーの運賃を踏み倒したばかりに無敵のタクシー運転手に執拗に追われる「ナイト・チェイサー」なんてフランス映画や、バカリズム脚本の「素敵な選TAXI」というテレビドラマもあります。
いずれも犯罪に巻き込まれたり、事件に遭遇したり、SFだったり、実際のタクシー運転手を正しくイメージアップすることにはあまり貢献しないかもしれません。今こそ、ジャニーズのタレントがタクシー運転手に扮して甘ったるい恋愛にかまけるキラキラ映画でも作れば、タクシー運転手に多くの若者が憧れるようになり、タクシー業界の人手不足も解消されるかもしれません。