トラック運転手は月収30万円~月収80万円とも、年収400万円~年収700万円とも言われる、高給を稼げる職業です。それだけではなく、完全週休2日で年間休日110日という、今どきの若者が大喜びな、ワーク・ライフ・バランスも良い仕事となっています。つまり、やればやるだけ稼げてプライベートも充実させられる仕事です。
それなのに、ああ、それなのに! ここのところトラック運転手のなり手が激減していると言うじゃありませんか、あーた。
これはゆゆしき問題です。この問題の原因の1つは「トラック運転手はイメージが悪い」からとも言われています。
1970年代、日本では「トラック野郎」という映画のシリーズが大ヒットしました。主人公は情に厚く、純情なトラック運転手ですが、腹巻き、ダボシャツというチンピラスタイルで、普段は言葉遣いも乱暴です。この主人公が、当時はトラック運転手のイメージとして普及しましたから、今なおそれを引きずっていると言えなくもないような気がしてならないような、そうでもないような。
そんなわけで、ここでは外国映画におけるトラック運転手を紹介します。それでトラック運転手に対するイメージを少しでも広げていただければと思います。
アメリカ映画が多いですが、フランス映画、イギリス映画もあります。
アメリカには、今は失われているようですが、開拓精神が受け継がれてきました。(自分にとって)未知の世界をガンガン開拓していく精神を尊重してきたわけです。1940年代から1950年代にはそれが西部劇で描かれていました。
その後、西部劇は廃れましたが、広大な大陸を大きなトラックで突き進む姿に、開拓精神の名残りが反映されていたと言っても「言い過ぎ!」と横やりを入れてくる人も多くはないでしょう。
爆走トラック'76
1975年のアメリカ・カナダ合作映画。日本公開が翌76年なので、タイトルは「76」になっています。監督はジョナサン・カプランで、主演のジャン=マイケル・ヴィンセントがトラック運転手を演じています。
兵役を終えて故郷に戻り、大型トラックの運転手として働き始めた主人公が、禁制品の運搬を断ったことからトラブルに巻き込まれていくアクション映画です。田舎の町の話なので、禁制品の運搬を依頼してくる悪徳運送会社はかなりの巨大な力を行使できます。この巨悪にヒーローが単身立ち向かっていくというのが、話の肝なわけです。
開拓精神を受け継ぐトラック運転手は、西部劇のヒーローとも重なり、また、高層ビルが立ち並ぶ大都会ではなく、地方の田舎町が舞台になっているところからも、雰囲気はやはり西部劇。トラックによる迫力のカーアクションもあります。
コンボイ
1978年のアメリカ映画。監督はサム・ペキンパーで、主演のクリス・クリストファーソンがトラック運転手を演じています。
コンボイというのは「運送船団」のことで、トラックが集団で走ることを指しています。
もともと同名のカントリーソングがあり、それを元にして作られた映画です。クリス・クリストファーソンは俳優としても活躍していますが、もともとはロック、カントリー&ウエスタンの歌手でもあります。「コンボイ」って歌は別の歌手の歌ですが。
物語は、トラック運転手の主人公とその仲間たちが保安官とトラブルを起こし、騒動がどんどん大きくなっていくというもの。保安官を演じるアーネスト・ボーグナインは、西部劇でも悪役を演じたりした、なかなか顔面力の強い俳優です。
ダーティファイター
1978年のアメリカ映画。監督はジェームズ・ファーゴで、主演は「ダーティハリー」のクリント・イーストウッドなのでこんな邦題になっていますが、決して「ダーティハリー」ライクな作品ではなく、恋とケンカに夢中なトラック運転手の奮闘を描いたアクションコメディです。
イーストウッド演じるトラック運転手がカントリー歌手にホレて、旅に出た彼女を追って行った先々で、ストリートファイトに興じたりする、そんな映画。主人公はオラウータンを相棒として助手席に乗せています。いくら何でも日本じゃできませんわ。
カントリーソングが詰まったサントラアルバムもヒット。
1980年には続編「ダーティファイター 燃えよ鉄拳」も作られ、主題歌を有名なカントリー歌手グレン・キャンベルが歌い、またR&B歌手レイ・チャールズとイーストウッドがデュエットしたカントリーソングもあり、やはりアルバムがヒットしました。
ゴースト・ハンターズ
1986年のアメリカ映画。監督はジョン・カーペンターで、主演のカート・ラッセルがトラック運転手を演じとらっせるでかんわ。
「ゴーストバスターズ」みたいなタイトルですがこれは邦題で、原題は「Big Trouble in Little China」。
トラック運転手の主人公が、サンフランシスコのチャイナタウンで、強大な魔力を得ようとする中国の妖怪と戦うファンタジーアクションです。トラックを使ったアクションがないわけではありませんが、魔術だのカンフーだのの強烈な印象の前には少々かすんでしまいます。
地獄特急
1957年のイギリス映画でモノクロ作品。監督はサイ・レイカー・エンドフィールドで、主演はスタンリー・ベイカーです。
主人公が運転手として勤める運送会社は、言ってみればブラック企業で、土砂置き場と建築現場を1日最低8往復しないとクビだ!みたいなことを言います。それで運転手たちは何往復できるかを競っていて、いつもトップの運転手が威張っています。主人公は新入りながら、イタリア人の運転手と仲良くなり、その協力もあって、トップドライバーの往復数に迫っていきます。
ちなみに、主人公たちが運転しているのは、厳密にはダンプカーです。
広大な大陸を大型トラックがゆうゆうと進むアメリカ映画と違って、細い田舎道をダンプがギュンギュンと飛ばしていく描写はかなりな迫力。
アーミージャンパーを着こなす、濃い目のハンサム、スタンリー・ベイカーがカッコよく、地味であまり知られていない作品ですが傑作です。
やくざ特急
1957年のイギリス映画でモノクロ作品。監督はミュージカル大作「チキ・チキ・バン・バン」なんかも撮ったケン・ヒューズで、主演はハリウッド俳優のヴィクター・マチュアです。
マチュア演じる主人公は、イギリス人の妻の希望でイギリスで暮らし始めた、アメリカ人のトラック運転手。運送会社が荷抜きをしていることを知ってしまい、倉庫に監禁されますが、一味のボスの愛人に助けられます。本当はアメリカに帰りたかった主人公なので、最近少し夫婦仲に暗雲が立ち込めていて、このセクシーな愛人にヨロめいていきます。
というわけで映画としてはメロドラマ風味のサスペンスに仕上がっていて、クライマックスでは主人公、一味のボス、その愛人の3人が同じトラックで密輸品を港に運びます。途中、トラックが川にはまり、抜け出すために主人公はタイヤを1本外します。もともと右側4、左も4で合計8本のタイヤで走っていたので、1本くらいなくても平気なんですね、トラックって。
肩パット付きのジャケットを着こなす、濃すぎる顔面のヴィクター・マチュアが、分厚い胸に逆三角形のマッチョな体格でカッコいいオッサン振りを発揮しています。
オーバー・ザ・トップ
1987年のアメリカ映画。監督はメナヘム・ゴーランで、主演はシルヴェスター・スタローンです。
主人公はトラック運転手で、10年振りに会った息子を連れてニューヨークからカリフォルニアまでトラックで旅をします。少年の母親が入院する、カリフォルニアの病院に行くための旅です。
車中泊をしながらの大陸横断は、いかにも“アメリカのトラック運転手”のイメージそのもの。ただ、本作はそれ以上に、主人公が取り組むアームレスリングと、10年振りに会って徐々に心を通わすようになる父子のドラマが強く印象を残します。
ちなみにスタローンは「フィスト」という映画で全米長距離トラック協会の若きリーダーを演じていますが、映画としては労働争議を描いた社会派な印象を残しています。
ヘッドライト
1956年のフランス映画でモノクロ作品。監督はアンリ・ヴェルヌイユで、主演はフランス映画が誇る名優ジャン・ギャバン。もちろん宇宙刑事じゃありません。
パリの下町で妻子と暮らす中年のトラック運転手が、長距離の仕事で仮眠をとった宿で働く20歳のウェイトレスと恋に落ちる、しみじみと味わうべきメロドラマです。
ジャン・ギャバンは人生のわびさびを繊細に表現する名優なので日本人からも愛されていて、本作は1986年に日本で「道」というタイトルでリメイクされました。ちなみに1954年のイタリア映画「道」も日本人にとても愛されているので、「ヘッドライト」の日本版が「道」というのはちょっとややこしいです。
太陽の下の10万ドル
1964年のフランス映画。監督は「ヘッドライト」のアンリ・ヴェルヌイユで、主演はジャン=ポール・ベルモンドとリノ・ヴァンチュラという、これまたフランス映画を代表する名優2人。リノ・ヴァンチュラはイタリア出身ですが。
モロッコからナイジェリアへ10万ドルの武器を運ぶ仕事を巡る、2人のトラック運転手の意地を掛けた追いつ追われつを描くサスペンスアクションです。おいしいが危険な仕事を1人占めする若いベルモンドと、それを追う中年のヴァンチュラの駆け引き、執念が見どころとなっています。
トラックは主に砂漠を走るのでスピード感はあまりありませんが、迫力はいっぱいです。ま、それよりも、若く軽妙なベルモンドと、貫禄があって渋いヴァンチュラを楽しみましょう。
激突
1971年のアメリカ映画。監督はスティーヴン・スピルバーグで、主演はデニス・ウィーバーですが、そのデニス・ウィーバーはトラック運転手ではありません。
乗用車を運転する主人公が何気なく大型トラックを追い越したことから、大型トラックが執拗に主人公を追い回し、激突しようと迫ってくる、ホラー風味満点のサスペンスアクションです。
アメリカではテレビムービーとして制作されましたが、日本やヨーロッパでは劇場公開されました。
アメリカ大陸はだだっ広く、特に都心を離れた荒野の真ん中では、危険にさらされたら逃げるしか生き延びる方法はないということが、じわじわと胸を締め付けてきます。肝心の運転手の姿が全然出てこない演出も恐怖を駆り立てます。
ちなみに、テレビ放映されたときの日本語吹き替えでは、穂積隆信が主人公を担当したヴァージョンはまさにテレビ放送史上に残したい傑作です。
このほか、日本映画「トラック野郎」シリーズがヒットした70年代には、テレビでは「爆走トラック!16トン」なんてアメリカのテレビドラマが日本でも放映されて人気となりました。中年と青年、2人のトラック運転手がアメリカ大陸を横断しつつ、いろいろな事件を解決していくというドラマでした。面白かったです。
何にせよ、書き出してみると、知らないだけかもしれませんが、意外と最近の映画、ドラマがありません。聞けばアメリカでもトラック運転手は人手不足と聞きます。アメリカでも、映画やドラマの主人公になりにくい職業になっているのかもしれません。