あるあるネタ、あるある話というのは、広く大勢の共感を得て「あー、そういうことってあるある」と思わせて成り立つものです。
しかし、不思議なもので、狭く一部の限定された人たちの「あー、そういうことってあるある」で成り立つあるあるネタ、あるある話もあります。共感を得ることはできませんが、その一部の限定された人たち以外の人が、一部の限定された世界を知るために役立つわけです。
なんて面倒くさい理屈を書きましたが、今回はタクシードライバーのいわゆる「あるある話」10選をご紹介します。タクシードライバーじゃない人は「ふうん、そういうことってあるかも」くらいの気持ちで読んでください。
1. 酔客は必ずしも嫌ではない
たまにテレビのワイドショーなどで、酔ったお客がタクシードライバーに暴言を吐いたり、後ろから蹴飛ばしているような動画を紹介します。
「やだやだ、あんな酔っ払いを乗せるタクシードライバーなんかには、間違ってもなるもんじゃない」と、多くの人が思うでしょう。しかし、あういう場面は珍しいからテレビで紹介されるわけで、そうしょっちゅう起こるわけではありません。
酔客はたいてい夜の繁華街で乗せます。終電を逃した人がタクシーを利用するわけですが、酒グセが悪い人ばかりではないのです。たいていは行き先を伝え、後は静かに寝てしまいます。これで、自宅に着いた途端にすぐ起きてお金を払ってくれるなら、この上ない「素敵なお客様」だと言えます。さらに自宅が遠方だったり、酔った勢いでチップまでくれたりしたら最高です。
そんな「ラッキー!」に出会える機会が多いのも「酔客を乗せたとき」なので、多くのタクシードライバーが夜の繁華街に向かうのです。
2. お客さんを乗せたときに限って手を挙げられる
空車状態で血まなこになってタクシーの利用客を探していても全く見つからないのに、ようやくお客さんを乗せた、と思うと途端に自分のタクシーに向かって手を挙げる人を見つけてしまいます。自分が乗せたお客さんの行き先が近距離だったりすると「あっちのお客さんは遠方に行くに違いない」と邪推したりします。
また、無線で呼ばれてお客さんを迎えに行く途中で手を挙げられることもよくあります。お客さんというのは、いないときには全くいないんですが、いるときには集中してしまうもののようです。
3. 「景気良い?」と聞かれる
タクシードライバーの仕事は接客が重要な要素になっています。ほとんどのお客さんが、タクシー車内では静かに過ごしたいと思っているので、タクシードライバーからむやみやたらと話しかけるのはよくありません。
しかし、中には積極的にタクシーと話したいというお客さんもいます。この場合、会話の内容には注意が必要です。昭和の時代には「野球の話」が定番みたいな感じではありましたが、今はスポーツ、政治など、お互いの強い思い、好みが衝突しそうな話題は避けたほうが良いと言われています。
その中で、お客さんのほうで無難な話題としてチョイスしがちなのが「どう、運転手さん、ここんとこ商売の調子は?」なんていうフリです。出張してきたビジネスマンがその土地の経済状況を知りたいのかもしれません。
この場合、たとえ最近ボチボチ儲かっているとしても「調子は良いですよ」なんて答えないほうが賢明です。タクシードライバーを世間の多くの人が見下していますから「タクシードライバーのくせに生意気な」なんて思われたら厄介です。ここは謙虚に「いやあ、さっぱりです」とかなんとか言っておきましょう。
4. 料金メーターを倒し忘れることがある
タクシードライバーも人間ですから、失敗やミスもやってしまいます。中でも、意外と多いのがこの「料金メーターを倒し忘れる」です。
お客さんを乗せたときに他の車から「早くどけよ」的なクラクションを押されて慌てて倒し忘れた、とか、話好きなお客さんで座席に乗ったとたんに会話が盛り上がって思わず倒し忘れた、とか、単純にうっかりしたとか、原因はいろいろです。
ただ、料金メーターを倒し忘れると、精算のときにお客さんともめることになりかねませんから面倒です。
5. 万札のお客が多いときつい
「タクシーに乗って支払うときに1万円札を出したらドライバーに嫌な顔をされた」なんて話はよく聞きます。
もちろんプロのタクシードライバーとしてそんなことでお客さんを不快にさせてはいけません。いつでもきちんとお釣りを用意しておくのが理想です。
しかし、とは言っても1万円札のお客さんが連続すると、これはやはりキツイです。
もちろんお客さんのほうにも1万円札しか持ち合わせていなかったことには、それなりの事情もあったかもしれません。ちなみにお客さんも「お客なんだから1万円札で払おうが何をしようが自由だ」なんて思ってはいけません。
当然、タクシードライバーだって「細かいお金くらい用意してタクシーに乗れよ」なんて、間違っても思ってはいけませんよ。
大事なのは「お互い様」という気持ちですから。
6. 休憩場所に選ぶのはトイレのある公園付近
公園脇の、車の通行量のあまり多くない道に、タクシーが停まっているのはよく見掛ける光景です。それとなく見てみると、運転席では座席を倒してドライバーが寝ていたりします。
小さく社名の入った乗用車で背広姿のサラリーマン風の人が寝ていることもあります。営業マンだと思ってまず間違いないでしょう。
タクシーが休憩場所に使う、こうした公園にはたいていトイレがあったりします。長時間、車内で過ごすタクシードライバーにとって、トイレ付きの休憩場所は大切なオアシスです。
7. 常連になるコンビニがある
長時間、車内で過ごすタクシードライバーにとって、トイレ付きの休憩場所は大切なオアシスです。
その1つがコンビニです。コンビニではお弁当、おにぎり、飲み物を調達でき、トイレもあります。駐車場ももちろんあります。あまり長居しなければ、駐車場で軽く空腹を満たすこともできるわけです。
自然とタクシードライバーには「行きつけのコンビニ」ができます。
タクシードライバーには、この町ではこのコンビニ、あの町ではあのコンビニと決めている人もいます。
コンビニにもいろいろな店があります。タクシードライバーの中には、どの町に行っても必ず「このコンビニ」と決めている人もいます。「あのスイーツの味は他のコンビニでは出せん」なんてこだわりを持っています。
8. 腰痛
「あるある」と言うよりもはや「職業病」と言えるのがタクシードライバーの腰痛です。タクシードライバーに限らず、多くのプロドライバーにとっての「職業病」かもしれません。
同じ姿勢で座り続けることで腰の筋肉が緊張し、それが腰痛の原因になるようです。運転姿勢が猫背の人も腰に負担をかけやすいと言います。
この腰痛を軽くするため、自分の体型に合わせたクッションを使うタクシードライバーが多いそうです。
9. チップは少額でもうれしい
お客さんが上機嫌で、タクシードライバーの接客がうまいと、チップをもらえることがあったりします。チップの額はまちまちですが、乗車料金を1万円札で払うとき、「お釣りは取っといて」なんてなることもあります。乗車料金とは別に千円札をチップと言って渡してくれることもあります。
どっちにしろ、チップは少額であることが多いですが、とにかく給与とは別に入ってくる収入ですし、少額でも貯まれば大きくなりますし、それよりも「自分の仕事が特別に認められた」ような気がして、チップをもらえると自然と微笑みが浮かびます。
10. オフの日に車を運転していても通行人の挙動が気になる
タクシードライバーの給与はお客さんの払う乗車賃から歩合制で計算されることが多く、タクシードライバーは「より多くのお客さんを乗せること」に躍起になります。
空車状態のとき、タクシードライバーの目はランランと輝き、歩道の通行人の挙動を絶えず気にしています。もちろん、ドライバーであるからには安全運転は絶対ですから、タクシードライバーとしていかに安全に運転しながら通行人にも注意を払うかのテクニックには、日々磨きをかけるわけです。
そんな生活を長年続けているタクシードライバーはいつの間にか、オフの日にマイカーを運転しているときも、自然と左側の歩道を行く人の挙動に注意が行ってしまうとか。